小さなお前は空を知っていた。大衆居酒屋のようにたくさんのノイズで騒がしい朝。
普段は眼を合わせないで人とすれ違う。だけど、見つけるとすぐに溶けてしまいそうな瞳の透明さ。
「早くして!」
「きちんとして!」
「はっきりして!」
その三つを守ればうそをついてもいいのだと周りが教えれくれた。
それからというものお前はますます口数が減った。いつもグラスの酒をおおかた空けるとカウンターの木目をなぞる。誰かに話しかけられでもしたら、ただ笑っているだけ。
空が遠い。その遠さの果てに未だ見知らぬ運命を夢見る。
知った人間が過ちを犯した挙句死んだ。どんな過ちを犯したかはここでは言えないが、うそをつかなかったから死んだ・・・・・彼は周りが求めるスピードにはついてゆけなかった。だから、途中までしか終わっていないその仕事を周りは彼から取り上げた。そして、彼の存在をうそにすることにした。
小さなお前は孤独だった。仲間とは酒と音楽でつながった。しかし、酒と音楽がますます孤独にした。なぜなら、みんな好きなことがばらばらだった。でもみんなが好きだから、みんなの酒と音楽を楽しみながら、自分の孤独を大切にした。
孤独は時には愛を求めた。みんなから愛されることばかり望む人を愛した。その人はたくさんのうそを作った。小さなお前は愛は万能でいつか優しさはみんなに理解されると思っていた。だから、その人のたくさんのうそは消えてしまうものだと思った。愛していたから。でもその人のたくさんのうそがお前をさらに孤独にした。そしてお前は自分の愛をうそにしてしまった。
しかし、本当のことは酒をいくら浴びても自分の中からは消えなかった。消せなかった。そのころには休みの前になるとお前はいつも朝まで飲んでいた。ほんとうのことを消したいのか、うそを消したいのかわからないほど酒を浴びた。そして、どうしようもない、孤独にどうにもならない自分の心をあざ笑うかのようにお前の内臓はイカレてしまった。